原因のわからない疲労・倦怠感には漢方治療

学校法人埼玉医科大学病院大野クリニック/武蔵野嵐山病院
教授 鈴木 朋子 先生

風邪をひきやすい、寝過ぎてしまうのも「疲労・倦怠感」の現れ

新型コロナウイルス感染症の罹患後に残る、いわゆる「コロナ後遺症」の症状として、「疲労・倦怠感」が注目されています。疲労とは、休息が必要であることを知らせるサインです。休息は、外部環境の変化に関わらず身体を一定の状態に保ち健康を維持するために欠かせません。倦怠感は疲労と同じような意味ですが、身体的・精神的に「だるい」と感じる自覚症状を指します。

人によっては、疲れや怠さをあまり感じないという方もいらっしゃるかもしれません。たとえ自覚がなかったとしても、疲労・倦怠感があると、元気が出ない、外出する気にならないといった状態として現れます。仕事でミスが増えたり、集中できなかったり、いつものように力が入らなかったりする場合も、疲労・倦怠感といわれる状態に該当します。また、風邪をひきやすい、食欲が出ない、眠れない、あるいは寝過ぎてしまう、寝汗が出るといった状態も疲労・倦怠感の現れです。

疲労・倦怠感の現れ方

  • 元気が出ない
  • 外出したくない
  • 仕事でよくミスする
  • 力が入らない
  • 風邪をひきやすい
  • 集中できない
  • 寝過ぎてしまう
  • 眠れない
  • 食欲が出ない
  • 寝汗がでる

健康な方でも過労やストレスなどから疲労や倦怠感を感じることがありますが、休息をとれば回復します。ところが、休んでも疲労・倦怠感が回復しない場合や、疲労を感じるほどの労働をしていないにも関わらず疲労や倦怠感を感じる場合には、さらなる不調につながる可能性があるため、注意が必要です。

慢性疲労症候群やフレイルにもつながる疲労・倦怠感

疲労・倦怠感が回復しないままその状態が続くと、慢性疲労症候群や抑うつ状態を招いてしまうことがあります。慢性疲労症候群とは、診察や検査では異常が認められないにも関わらず、日常生活を送れないほど重い疲労感が6か月以上の長期に渡って続く状態です。症状の原因となる異常が認められないために、有効な治療法がなく、時間の経過にともなって症状が軽減するのを待つことになります。

これ以外にも、疲労・倦怠感が続くことによって、日常生活での活動量が減り、心身が疲れやすく弱ってしまうフレイルや、高齢者の場合には、立ったり歩いたりするための身体能力が低下するロコモティブシンドローム、筋肉が減少して転びやすくなったり歩行困難になってしまうサルコペニアにもつながります。

疲労・倦怠感が引き起こす状態

  • 慢性疲労症候群
  • 抑うつ状態
  • フレイル
  • ロコモティブシンドローム(高齢の場合)
  • サルコペニア(高齢の場合)

特に高齢者では、フレイル、ロコモティブシンドローム、サルコペニアは、進行すると介護が必要になるリスクが高くなります。こうした状況になる前に、疲労・倦怠感に対処しておくことが大切です。

西洋薬では治療できない疲労・倦怠感に漢方薬

疲労・倦怠感の原因となる病気の存在が明らかな場合にはその病気の治療を行いますが、原因となる異常が認められない場合には、西洋薬による治療は難しくなります。そのような場合には、漢方による治療を検討します。

漢方のアプローチでは、疲労・倦怠感は気(生命活動のエネルギー)の異常と捉えます。気虚、気滞となり、血(血液をはじめとするあらゆる体液の総称)が不足する血虚に進展しますので、補気、補血作用のある漢方薬を使います。具体的には、 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 人参養栄湯(にんじんようえいとう) 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 加味帰脾湯(かみきひとう) 帰脾湯 八味地黄丸(はちみじおうがん) 六味丸 六君子湯(りっくんしとう) 四君子湯 を、患者さんの症状や体質に合わせて処方しています。

疲労・倦怠感に対する漢方薬の処方

漢方的なアプローチのメリットは、患者さんの体質や状態に合わせて漢方薬を選択し、すぐに治療を開始できるという点です。また、診断に迷う、疾患名がつかないような不調にも対応できるため、機能的な異常(臓器や検査結果で原因となる異常が認められないが自覚症状がある状態)への治療が可能です。

一方で、疲労・倦怠感をきたす原因となる器質的な異常(臓器や検査結果で異常が認められる状態)が背後に隠れている場合もあるため、見逃さないよう注意が必要です。

自分の体の声に真摯に耳を傾けて

疲労・倦怠感は、体からの大事なサインです。まずは、自分の体の声に真摯に耳を傾けましょう。そして異常を感じたら、無理をせずに早めに医療機関を受診して医師の診察を受けましょう。西洋薬の治療も漢方治療も、早期からのスタートで効果も早くでますし、悪化を防ぐことができます。

 

学校法人埼玉医科大学病院大野クリニック/武蔵野嵐山病院
教授 鈴木 朋子 先生

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