漢方を取り入れた体調管理で、熱中症対策

地球温暖化の影響で、世界中で平均気温が上昇しています。大雨や洪水、干ばつなどの異常気象を報じるニュースもよく聞くようになりました。日本も例外ではなく、最高気温が35℃以上の猛暑日や、30℃以上の真夏日、最低気温が25℃以上の熱帯夜が増えています。平均気温の上昇に伴い、増えてくるのが熱中症です。

真夏ではなくても、急に暑くなった日は熱中症に注意

熱中症とは、温度や湿度の高い環境に長時間過ごすことで、体内の水分や塩分などのバランスがくずれたり、体温を調節する機能が働かなくなったりして、体内に熱がこもった状態です。

軽度の症状としては、めまいや立ちくらみ、筋肉痛などですが、症状が重くなると吐き気や身体のだるさを感じることもあります。さらにひどくなると意識を失ったり全身がけいれんし、救急搬送されたり、最悪の事態に至ることもあります。

熱中症が疑われる場合には、不足した水分・塩分の補給や、身体を冷やすことで対処しますが、呼びかけに答えない、自分で水分がとれない、意識がない場合には直ちに救急車を呼ぶ必要があります。

熱中症が起こるのは、真夏だけではありません。湿度が高い日や、風が弱くて日差しが強い日、急に暑くなった日などにもかかりやすくなるので注意しましょう。

気温が高い年は熱中症の診断が多い

そこで、熱中症と気温の関係について、株式会社JMDCが保有するレセプトデータを用いて調査しました。

図1は、2013年1月〜2022年12月までの10年間に熱中症と診断された全国の患者数と、8月の東京都の平均気温を重ね合わせたものです。

 

図1 熱中症と診断された患者数と8月の東京都の平均気温の推移
(n=3,219,129)

2013年から2018年にかけては、気温の変動とおおよそ近い形で熱中症患者さんの数も増減しています。特に2018年は、気象庁によると東日本・西日本で記録的な高温となり、熱中症患者数も5,514例と、10年間で最も多くなりました。

一方、東京都の平均気温が10年間で最も高かった2020年に熱中症と診断された患者数は2,971例と、2018年と比べて少なくなっています。これには、2020~2021年に流行した新型コロナウイルス感染症により、外出頻度が減ったことが影響していると推測されます。

熱中症と診断された患者に、漢方が処方されることも

熱中症に対する医療機関での処置・治療は、まずは身体を冷やし、必要に応じて水分・塩分補給の点滴が行われます。薬による治療は一般的ではありませんが、漢方薬を処方される場合があります。2013年1月〜2022年12月の間に熱中症と診断された患者さんのうち、漢方薬を処方された患者の割合を図2に示します。

 

図2 熱中症と診断された患者のうち漢方薬を処方された割合の推移
(n=3,219,129)

2013年に漢方薬を処方された熱中症患者さんの割合は約21%でしたが、その割合は年々増加し、2022年には約39%に漢方薬が処方されていました。

気温の変動に連動する補中益気湯の推定処方患者数

熱中症や夏バテに処方される漢方のひとつが、 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) です。胃腸の働きを整えることで、体のだるさや疲れやすさを回復するように働きかける漢方です。具体的には、虚弱体質、疲労倦怠、病後の衰弱、食欲不振、ねあせ、夏やせなどの効能があるとされています。

そこで、2022年7月~9月における東京都の平均気温(気象庁「過去の気象データ」より)と、同期間に都内の調剤薬局で 補中益気湯 が処方された推計患者数の推移を調べました。図3がその結果です。

 

図3 平均気温と補中益気湯の推計処方患者数推移(東京都、2022年)

調査期間の前半では、東京の平均気温の上がり下がりに追従するように 補中益気湯 の推計処方患者数も推移しています。そして8月19日頃からは、平均気温の上下と推計処方患者数の推移が連動していました。

なお、2022年の7月18日(海の日)、8月11日(山の日)、9月19日(敬老の日)、9月23日(秋分の日)は祝日で、診療している医療機関の数自体が少なく、推定処方患者数の減少に影響があったと考えられます。

漢方を上手に取り入れて熱中症になりにくい身体へ

熱中症を予防するには、暑さを避けて身体に熱がこもらない服装を心がけ、こまめに水分を補給するようにします。運動や食事、睡眠などの生活習慣を整えて丈夫な身体を維持しておくことも対策になります。

食事を工夫して熱中症を予防したい方には、 こちらのサイト に積極的に摂取したい食べ物や飲み物が紹介されています。食材だけでなくレシピも知りたいという方には、 医食同源薬膳レシピ で身体の不調に合わせて漢方の知恵を取り入れたレシピが多数紹介されていますので、参考にしてみてください。

熱中症になりにくい身体づくりに、漢方を取り入れてみたいとお考えの方は、漢方の処方もしている医療機関で相談してみましょう。

【今回の調査データについて】

今回の調査では、株式会社JMDCが保有しているレセプトデータおよび調剤薬局の処方データを用いています。レセプトデータは医療機関で熱中症の診断がついた患者を対象としているため、比較的重篤な患者が対象になっていると考えられます。また、調剤薬局の処方データでは熱中症の診断の有無は問うていないため、熱中症以外の疾患に対する処方が含まれる可能性があります。