コロナ後遺症と漢方 その2 睡眠障害、頭痛・熱

睡眠障害や頭痛、熱を起こしやすい患者さんの特徴とは?

今回の記事では前回取り上げたコロナ後遺症のうち、睡眠障害と頭痛・熱にフォーカスします。特に年齢と体重の指標であるBMIに注目して、どのような方がコロナ後遺症として睡眠障害や頭痛・熱を起こしやすいのかをみてみました。分析には前回と同じく、医療ビッグデータを用います。

分析では、コロナ後遺症と考えられる睡眠障害および頭痛・熱と診断された患者さんの発生率を男女別で集計しました。(データ対象期間:2020年4月~2021年12月)
分析の対象者は、新型コロナウイルス感染症の前には睡眠障害あるいは頭痛・熱の症状がなかったが、感染後にそれらの症状が出た人です。

男性・肥満ほど睡眠障害を発症しやすい

それでは睡眠障害と年齢・BMIごとの特徴をみてみましょう。年齢別の分析では、12,988人を母集団とし、うち後遺症と考えられる睡眠障害を発症したのは341人(約2.6%)でした(図1)。年齢別の特徴としては、男女ともに高齢になるほど発症割合も増加する傾向にありました。この結果に関しては、睡眠障害の症状は、65歳以上の高齢者によくみられることが背景にあるかもしれません。

睡眠障害は、主に男性において晩年によくみられる症状に関連して起こる場合があります。

晩年によくみられる症状

  • 長く続く関節の痛み
  • 夜間の頻尿
  • 認知症
  • うつ病などの精神的な疾患 など

特に睡眠時無呼吸症候群は、最もよくみられる睡眠障害の原因の1つです

続いて年代別×性別の特徴をみてみましょう。これまでコロナ後遺症の性別による差に関する報告例は多くありませんでしたが、本分析によると睡眠障害については30代では男性約2.4%、女性約1.3%、60代では男性約6.1%、女性約3.6%という結果となりました。先ほど述べたように、同年代で比較した時には男性において夜間の頻尿や認知症などの症状をきたしやすいため、このような性別による差が生まれたとも考えられます。

体重の指標であるBMIとの関連についてもみていきましょう。BMIの分析では、8,332人を母集団とし、うち睡眠障害の後遺症を発症したのは240人(約2.9%)でした(図2)。男女共にBMIが高くなるにつれて睡眠障害の発症割合が高くなっていました。肥満の方は新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいと言われており、もちろん後遺症の症状も強くなると考えられます。また、肥満は先ほどの睡眠時無呼吸症候群の重要なリスク因子ですので、その影響もあるでしょう。

図1 睡眠障害 年齢別分析(n=12,988)

図2 睡眠障害 BMI値別分析(n=8,332)

頭痛・熱の後遺症が最も少ないのは普通体重

続いて、コロナ後遺症として出現したと考えられる頭痛・熱についてみてみましょう。年齢別の分析では、12,964人を母集団とし、うち後遺症と考えられる頭痛・熱を発症したのは147人(約1.1%)でした(図3)。年齢層によって特に大きな差はみられず、男性と女性を比べるとやや女性の発症率が高い傾向がみられました。代表的な頭痛である片頭痛には女性ホルモンが関係しており、女性の有病率が約3倍高いためその影響があると考えられます。一方、60代以降ではその傾向が逆転し男性の発症率が高くなっていました。

次にBMIと頭痛・熱との関連をみてみましょう。BMIの分析では、8,312人を母集団とし、うち後遺症を発症したのは93人(約1.1%)でした(図4)。今回の結果では、日本肥満学会の定めた基準で「普通体重」とされるBMIが18.5~24.9の集団において、頭痛・熱の後遺症が起こりづらいことが分かりました。また、BMIが18.5未満の痩せ型では男性で女性と比べて約4倍、頭痛・熱症状が多く出現していました。理由は定かではないですが、分析対象の人数が少ないことによるばらつきの影響があるとも考えられるため注意が必要です。

図3 頭痛・熱 年齢別分析(n=12,964)

図4 頭痛・熱 BMI値別分析(n=8,312)

※棒グラフに重なっている縦線は「95%信頼区間」

治療に難渋する睡眠障害、頭痛・熱には様々な漢方薬で対処

次に、コロナ後遺症として睡眠障害と頭痛・熱を認めた患者さんの服用薬をランキング形式でみてみましょう。コロナ後遺症と考えられる睡眠障害と頭痛・熱を認めた患者さんに処方された薬剤を、効果効能別に分類し集計しました(表1)。

服用数が多かった治療薬は、潰瘍治療薬、ステロイド、解熱鎮痛薬、便秘薬、咳止めなどでした。いずれもコロナ後遺症として頻度の多い症状に対して用いられる薬剤であるため、上位にランクインしていると考えられます。

一方で睡眠障害の2位にランクインしたステロイドは、新型コロナウイルス感染症が蔓延し始めた頃は重要なコロナ治療薬と位置付けられ、頻繁に用いられていました。ステロイドはそれ自体が睡眠障害の原因となりうる薬剤です。退院後も長期に渡りステロイドの内服を続けることで、睡眠障害を引き起こしている可能性もあります。

中でも興味深かったのは、睡眠障害の10位、頭痛・熱でも11位に漢方薬がランクインしている点です。コロナ後遺症は治療に難渋することが多いとされています。そのような患者さんに対して、様々な漢方薬が用いられている可能性があります。

表1. 新型コロナウイルス感染症の後遺症としての睡眠障害、頭痛・熱に処方された薬剤ランキング

コロナ後遺症でなくても、日々の体調管理に漢方という選択肢

今回はコロナ後遺症の中でも特に睡眠障害、熱・頭痛に中心にみてきました。これらの症状は年齢や体重によって発症頻度が異なることや、服用薬にも様々な特徴があることが分かりました。コロナ後遺症としては勿論のこと、特に新型コロナウイルス感染症に罹ったりコロナ後遺症を発症していなくても、日々の生活の不調から睡眠障害や頭痛が生じることもあるのではないでしょうか。日々の体調を整える上で、漢方も1つの選択肢になると考えられるでしょう。

【今回の調査データについて】
今回の調査は、株式会社JMDCが保有するレセプトデータ(データ対象期間:2020年4月~2021年12月)を用いて、新型コロナウイルスが原因で入院し、入院前の1年間には調査の対象となる症状を訴えて医療機関を受診したことがなく、退院後3か月以内で、新たにその症状が認められた患者さんのみを対象としています。BMIの集計についてはBMI値のデータも併せて持つ患者さんとしています。

注意点として、今回の分析対象とした患者さんの中には、新型コロナウイルスとは別の疾患で入院し、新型コロナウイルス感染症を検査するために新型コロナウイルス感染症の病名をつけたなど、実際には新型コロナウイルス感染症による入院ではない患者さんが含まれている可能性があります。
また、入院中に行った様々な検査を契機に発覚した疾患も、本分析では「後遺症」に含まれてしまうことにも要注意です。例えば、心筋梗塞が原因で入院した患者さんが血液検査で糖尿病と発覚し、さらに入院中に新型コロナウイルスに感染した場合、本分析では「後遺症」に含まれます。

【参考文献】
ⅰ: Suzuki K, Miyamoto M, Hirata K. Sleep disorders in the elderly: Diagnosis and management. J Gen Fam Medicine 2017;18(2):61–71. 10.1002/jgf2.27
ⅱ: Alberca RW, Oliveira L de M, Branco ACCC, Pereira NZ, Sato MN. Obesity as a risk factor for COVID-19: an overview. Crit Rev Food Sci 2021;61(13):2262–76. 10.1080/10408398.2020.1775546
ⅲ: Allais G, Chiarle G, Sinigaglia S, Airola G, Schiapparelli P, Benedetto C. Gender-related differences in migraine. Neurol Sci 2020;41(Suppl 2):429–36. 10.1007/s10072-020-04643-8

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