「天気痛」「気象病」気象の変化で発症する片頭痛に、漢方ができること

天気の変化に伴う体調不良、天気痛

「天気が変わるとなんとなく体調が悪くなる」、「雨が降ると身体のどこかが痛くなる」、そんな経験はありませんか?

これらは「天気痛」や「気象病」と呼ばれています。今回は、「天気痛」「気象病」とされる不調のなかでも片頭痛に注目し、気象との関係を調査しました。また、片頭痛患者さんがよく受診する診療科や、片頭痛治療に用いられる漢方についてもご紹介します。

季節の変わり目に増える片頭痛の診断

片頭痛とは、頭痛の原因となるような病気がないにも関わらず、日常生活に支障をきたすほどの頭痛のことです。片頭痛が起こる詳しい原因についてはわかっていませんが、なんらかの刺激によって脳の血管が急激に拡がることで痛みが起こるとされています。刺激となる要因には、ストレスや疲労、睡眠不足などの精神的な要因や、月経周期による内因的な要因、天候の変化や温度差、臭い、音、光といった環境要因、運動、欠食、性的な活動や旅行といったライフスタイルに関する要因、空腹や脱水、飲酒、食べ物といった食事による要因などがあると考えられており、一部の片頭痛患者さんでは、台風や低気圧、湿度など気象の変化で頭痛が悪化することがあるといわれています。

片頭痛と気象の関連について、医療ビッグデータと気象データを組合せ、機械学習モデルを用いて行った研究結果が、第49回・第50回の日本頭痛学会で発表されました。

この研究では、様々な気象要素がどのように片頭痛の発症に影響しているかを検討するため、2019年の1年間に関東地方の医療機関で片頭痛治療薬が処方された患者さんを対象に、処方日から遡って1週間の気象が処方回数にどの程度影響しているのかを調査しました。気象データには、気温、湿度、気圧、日照時間などの項目が含まれますが、機械学習を用いて日照時間と気温の関連など各項目間の相互関係も考慮して分析したところ、最も処方回数に影響を与えていたのは気温であることが明らかになりました。

また、片頭痛発症前の何日間の気象の要素が、最も片頭痛の発症に影響するのかを検討した別の調査では、発症前3日間の影響が最も大きいことが示されました。

図1は、9,339,067人の医療ビッグデータから、2017年11月~2022年10月の5年間で実際に片頭痛と診断された患者さんの数を月別に集計したグラフです。このうち一度でも片頭痛と診断された患者さんは291,513人でした(約3.2%)。

図1 片頭痛 平均月次患者数推移(5年間)
(n=9,339,067)

片頭痛と診断された患者さんがいちばん多かった月は10月で、5年間の平均は35,564.8人でした。続いて7月(34,832.4人)、3月(34,162.8人)の順でピークがあります。これらの月はいずれも季節の変わり目に当たり、ほかの月と比べて寒暖差が激しかったり天候の急な変化が多い時期にあたります。

7~10月にかけても患者さんが増加しています。これについては、台風の接近による気圧の変化が影響していると考えられます。実際に、「台風が発生しているのがなんとなくわかる」「雨が降りそうなのがわかる」など、変化に敏感な片頭痛患者さんのなかには、気圧と頭痛の予報アプリを参考に、自身の体調を管理している方もいるようです。

通常の治療ができない場合には漢方という選択肢

前述のとおり、片頭痛の引き金となる要因はさまざまです。これらの要因に注意をして避けるように心がけることで、片頭痛の発症を予防できるかもしれません。また、痛みが起こってしまったら、静かな暗い場所で休んだり、痛む部分を冷やしたり、入浴を控えるなどの対処で痛みが軽減されることもあるでしょう。

痛みが出た場合には、次のようなツボを試してみると一時的に症状がやわらぐこともあります。

  • 攅竹(さんちく):眉毛の内側の端にあるくぼみ部分。
  • 百会(ひゃくえ):頭のてっぺんの部分。
  • 片頭点(へんとうてん):薬指の小指に近い第二関節の部分。
  • 合谷(ごうこく):親指と人差し指の骨が合う部分。

ツボの位置が完全に合っていなくても、その周辺を触ってみて、周りの皮膚より硬くなっていたり、押して痛いと感じるところを見つけて押しましょう。力を入れ過ぎず、気持ちいいと感じる程度に押すのがポイントです。

片頭痛の発作が起きると、痛みをとることを目的とした治療が行なわれます。治療薬としては、痛み止めや脳内の血管を収縮させる薬剤、吐き気止めが用いられます。片頭痛が長く続く場合や重症と判断された場合には、鎮静麻酔薬や副腎皮質ステロイドなどが使用されることもあります。
また片頭痛の発作が月に2回以上あったり、生活に支障をきたすほどの頭痛が月に3回以上ある場合には、発作を予防する治療法が検討されます。

これらの治療で効果がない場合や、通常の治療を行うことができない場合に、選択肢の1つに挙げられるのが漢方です。漢方は、症状にピンポイントで作用する西洋薬とは異なり、患者さんそれぞれの体質に合わせて処方され、身体全体の調子を整えることで改善していくという考えにもとづいています。

片頭痛患者に処方された漢方、1位は 五苓散

医療ビッグデータから、2021年11月~2022年10月の1年間で、片頭痛の発作を治療するために処方された漢方薬を集計しました。その結果、処方数が多かったのは、 五苓散 葛根湯 加味逍遙散 当帰芍薬散 小青竜湯 補中益気湯 でした。

片頭痛患者に処方された漢方ランキング

(n=163,460)

  1. 五苓散 15,956例
  2. 葛根湯 10,434例
  3. 加味逍遙散 4,085例
  4. 当帰芍薬散 4,058例
  5. 小青竜湯 3,595例
  6. 補中益気湯 3,367例

処方の多かった 五苓散 葛根湯 について、半年間で片頭痛の診断があったものの、一度も漢方が処方されたことがない患者さんを対象に、その後半年間追跡し、平均何日分処方されたのかを調べたところ、 五苓散 は47.98日、 葛根湯 は22.29日でした。

葛根湯 には筋緊張をやわらげる効果も期待できます。そのため鎮痛効果が得られて頭痛が改善するまでの、短期間または一時的に使用されることが多い漢方です。

一方、 五苓散 は体内に滞っている水を排出する利水効果があるとされ、頭痛が起きにくくなるよう脳の環境を整えることが期待されます。片頭痛の発作が出たときだけでなく頭痛全般の治療に用いられており、基本的には定期的に服用する漢方です。

なかなか治らない片頭痛の治療は、漢方専門医に相談を

片頭痛と診断を受けた際に受診した診療科について、2021年11月~2022年10月の1年間に片頭痛と診断された9,897,145人を対象に調査しました。その結果、最も多かったのは一般内科(71,835人)で、次いで脳神経外科(41,965人)、小児科(10,083人)、脳神経内科(10,058人)、精神科(7,790人)でした。

診療科別 片頭痛診断数

(n=163,460)

  1. 一般内科 71,835例
  2. 脳神経外科 41,965例
  3. 小児科 10,083例
  4. 脳神経内科 10,058例
  5. 精神科 7,790例

併発している症状やかかりつけ医師の標榜科にもよりますが、確実な病因がわかっていない場合に最初に訪れる診療科として、一般内科を選ぶ患者さんが多いと考えられます。また、頭痛専門医を掲げている一般内科、脳神経内科や脳神経外科を受診する患者さんも増えています。

片頭痛と気象の関係は様々であり、気圧の変化に弱い方もいれば、夏季に高温が続く際に発症しやすい方もいます。気象の変化による片頭痛に悩んでいる方は、天気予報に合わせて予定を変更したり生活習慣を工夫してみてはいかがでしょうか。

通常の治療薬ではなかなかよくならない片頭痛にお悩みの方や、漢方薬による治療を試してみたい方は、漢方専門医のいる医療機関で、自身の体調や性質にあった薬剤を処方してもらいましょう。

【今回の調査データについて】
今回の調査は、株式会社JMDCが保有しているレセプトデータを用いて行いました。

第49回・第50回日本頭痛学会で発表した研究では、対象期間は2019年1月1日~12月31日で、JMDCデータと気象庁のデータを使用しました。片頭痛治療薬の一種であるスマトリプタン皮下注射の処方数の多さおよび気候の均質性の観点から関東地方を分析対象としています。最高気温等は、各都道府県の県庁所在地の気象庁データの平均値を採用(ただし、欠損がある場合にはそれを除いた上で平均値を利用)し、機械学習を用いて特徴量重要度(ターゲットに影響を与えている各気象要素の度合い。今回のターゲットはスマトリプタン皮下注射の処方数)を算出しました。