生理前のさまざまな不調に、漢方による治療で対応
生理前に起こり生理開始とともにおさまる不調、月経前症候群(PMS)
生理が始まる3~10日前頃から起こる身体的あるいは精神的な不調で、生理が始まるとこれらの不調がなくなる場合に、月経前症候群(PMS)と呼ばれます。20~30代に多く見られる傾向があり、主な症状には頭痛や腹痛、便秘、むくみ、乳房の張りといった身体的なものから、イライラ、睡眠障害、不安、集中力低下などの精神的症状、食欲不振・過食、めまい、だるさといった自律神経症状などが挙げられます。生理が始まるとこれらの症状が軽減したり解消したりします。
子宮内膜や体温維持などに影響を与える黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌される周期と症状の出現がほぼ重なっていることから、何らかの関係性があると考えられていますが、原因ははっきりとはわかっていません。
なお、日常生活に大きな支障をきたすほどの精神症状が現れるようであれば、PMSではなく月経前不快気分障害(PMDD)の可能性があります。
なお、生理中や生理が始まる直前から始まる下腹部の痛みや腰痛など、生理に伴って起こる症状で生活に支障をきたす場合は、月経困難症と呼ばれます。いわゆる「生理痛」が主な症状で、頭痛や疲労、食欲不振、イライラなどの症状が起こることもあります。生理痛は子宮の過度な収縮や痛みを引き起こす物質の増加などによると考えられています。なかには、子宮腺筋症や子宮内膜症、子宮筋腫などの病気が原因となっていることもあります。
生理前・生理中の身体不調で最も多いのは「痛み」
株式会社JMDC(以下、JMDC)が、健康保険組合加入者向け健康ポータルサイト「Pep Up」上で生理前・生理中の不調に関してアンケートを実施し、約1万人から回答が得られました。(注:回答は自己申告によるもので、医療機関で受けた診断ではない)
生理前および生理中に経験する症状のうち、最も辛い症状について質問したところ、最も多かったのは下腹部痛や腰痛、頭痛といった疼痛(痛み)の61.1%で、続いて、疲れやだるさなどの倦怠感が21.1%でした。
図1 生理前~生理中に感じる一番辛い症状
(n=10,169)
特に辛いと思う症状はないと回答した方は9.0%で、多くの方が生理前・生理中に何らかの辛さを抱えているという結果でした。
痛みがあると回答した方(生理前:7,545人、生理中:9,037人)を対象に、痛みの程度について質問したところ、痛みの程度が「耐えられないほど」、または「かなり」と答えた方の割合は、生理前では約32%、生理中では約46%でした。また、痛みの程度が「耐えられないほど」との回答は、生理中に痛みがある方のほうが生理前に痛みがある方の2倍以上という結果でした。
生理前・生理中の痛みが強くても、鎮痛剤を使用していないことも
次に、最も辛いと答えた方が多かった「痛み」について、症状を緩和するために鎮痛剤を使用する頻度を質問しました。対象は生理前に痛みがあると回答した7,550人と、生理中に痛みがあると回答した9,045人です。(注:痛みの程度についての質問と鎮痛剤の使用状況についての質問では回答者数が異なる)
図2 生理前~生理中の鎮痛剤の使用状況
痛みがあるにもかかわらず鎮痛剤を使用していない方は、生理前で56%、生理中では39%で、痛みの程度が「かなり」「耐えられないほど」と答えた方でも、生理前で25%、生理中で16%という結果でした。
精神的な不調では「イライラ・不安・緊張」が最多
PMSや月経困難症では、身体的な症状だけでなく精神的な症状も起こります。そこで、生理前・生理中に感じた精神的な不調について質問しました。
図3 生理前~生理中の精神的な症状
(n=9,084)
精神的な症状のうち自覚している割合が高かったのは、「イライラ・不安・緊張」で54%、「気分のアップダウン(情緒不安定)」で44%でした。最も辛いと感じている症状についても順位は同じで、それぞれ46%、18%でした。ほかにも、「気分の落ち込み・悲しみ・憂うつ」、「無気力・集中力の欠如」などの症状を自覚している方が多いという結果でした。
PMSと同時に診断、約半数が「月経困難症」
PMSと診断された患者さんで、同時にほかの病気の診断もされている場合、具体的にどのような病気が多いのかを調査するため、JMDCが保有する健康保険組合加入者のレセプトデータベースから、2022年6月〜2023年5月の間にPMSと診断された(月経前浮腫、月経前片頭痛の診断も含む)14,068人のデータを集計しました。
図4 PMS患者のうち、他の病名も診断された割合
(n=14,068)
※1人の方が1年間に複数の病名の診断を受けた場合は、それぞれの病名に1名ずつカウント。
その結果、「月経困難症」と診断された患者さんが最も多く47%でした。次いで「卵巣機能不全」(16%)「子宮頸部びらん」(15%)、「不眠症」(13%)、「子宮内膜症」(13%)、「子宮筋腫」(10%)「神経症」(10%)という結果でした。
PMSの多様な症状に、漢方薬による治療で対応
PMSと診断された場合、まずはどんなときに症状が出やすいか、多く起こる症状にはどんなものがあるかなど、症状を記録してみます。これによって、PMSの症状が起こったときに対処がしやすくなります。例えば、軽いストレッチや有酸素運動をする、十分な睡眠をとる、禁煙する、バランスの取れた食事をとる、ストレスを溜めないなどの工夫をし、自分なりの対処方法を探すことも治療の一環です。
薬を使った治療では、排卵を止めて女性ホルモンの変動を抑える治療や、それぞれの症状に対する治療(鎮痛剤など)が行われます。
漢方も、PMSの治療選択肢のひとつです。漢方は、身体全体のバランスを整えることで不調の改善を目指します。患者さん一人ひとりの体質に合わせた処方をすることで、PMSの多様な症状に対応できる可能性があります。
実際にPMSに対して処方された方剤について、2022年6月から2023年5月の間にPMSと診断され、漢方薬が処方された患者さん6,558名を対象にJMDCのデータベースを調べた結果、最も多かったのは 加味逍遙散(かみしょうようさん) で、次いで 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) でした。
PMSに処方される漢方の効能・効果
生理前・生理中の不調でお悩みの方で、漢方による治療を取り入れてみたいという方は、漢方薬も処方している婦人科を受診してみましょう。
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