ニキビができたら早めの治療、痕も残さず繰り返さない
思春期にできることが多いことから「青春のシンボル」と呼ばれることもあるニキビ。一度もニキビができたことがないという方は少ないのではないでしょうか。
今回は、身近な疾患であるニキビについて、医療機関での治療と実際に処方された治療薬、漢方による治療についてご紹介します。
多くの人が経験するニキビは、心理的な影響も大きい
ニキビは皮膚の慢性炎症性疾患で、医学的には「尋常性ざ瘡」と呼ばれます。「尋常性」とは「よく起こる」という意味で、日本人の約10人中9人がニキビを経験します。過剰に分泌した皮脂が毛穴に詰まり、そこでアクネ菌(ニキビの原因菌)が増えて炎症を起こすことで、赤いぶつぶつや、膿がたまったニキビができます。炎症が悪化すると毛穴の周りの皮膚にダメージを与え、炎症が治ってからも痕が残ってしまうこともあります。特に10代でできることが多く、学校など集団の中で過ごす世代には心理的な影響が大きい疾患です。
このように、生活の質(QOL)の低下にもつながるニキビですが、熱が出たり寝込むようなことはないため、よほど症状がひどくなければニキビのために医療機関を受診しようと考える人は少なく、実際に受診するのはわずか15%程度とされています。
かつては、医療機関で治療するニキビといえば、炎症が起こり、赤いぶつぶつや膿がたまったニキビで、抗菌薬の飲み薬や塗り薬による治療が行われていました。しかし現在では、炎症になる前の、皮脂が毛穴に詰まった状態(面ぽう)のうちに、毛穴の詰まりを改善する治療が行われるようになりました。ニキビは早いうちから治療を開始し、繰り返さないように再発予防をする疾患なのです。
ニキビの治療、処方割合最多は塗り薬
今回は、実際にニキビの治療でどのような薬が処方されたのかを、株式会社JMDCが保有するレセプトデータを用いて調査しました。
まず、処方された治療薬の内訳について、2013〜2022年の10年間で一度でもニキビと診断された患者さんを対象に、「飲み薬(内服抗菌薬)」「漢方」「塗り薬」「過酸化ベンゾイル」「いずれの薬の処方もなし」のカテゴリごとに割合を出しました(図1)注)。
注)異なるカテゴリの薬剤が複数処方された患者さんは重複してカウントしています(例:過酸化ベンゾイルと漢方が処方された患者さんは、過酸化ベンゾイルと漢方それぞれで1人としてカウント)。
図1 尋常性ざ瘡患者さんへの各薬剤の処方割合
(n=3,219,129 )
その結果、ニキビの治療で処方割合が最も多かったのは、2013〜2022年の調査期間を通じて塗り薬で、2014年までは患者さんの半数以上に塗り薬が処方されていました。以降、処方は減少傾向にあるものの、2022年でも40%に塗り薬が処方されています。なお、この「塗り薬」のカテゴリーには、2008年に登場したアダパレンと、塗り薬の抗菌薬が含まれており、同じ塗り薬でも過酸化ベンゾイルは別のカテゴリとしています。
アダパレンは、毛穴に皮脂がたまった面ぽうの治療から、赤いぶつぶつや膿のたまった重症のニキビの治療まで幅広く使われる治療薬ですが、ピリピリとしたしげきや肌の乾燥といった副作用が現れやすい傾向があります。また、抗菌薬は長期間使用し続けるとアクネ菌が薬剤耐性(薬に対する抵抗性)を獲得する可能性があります。
飲み薬(内服抗菌薬)の処方は減少傾向、漢方にも一定の需要あり
2013年の時点では、ニキビ患者さんの30%以上に飲み薬(抗菌内服薬)が処方されていました。主にドキシサイクリン、ミノサイクリンなどの抗菌薬が処方されていますが、抗菌薬の塗り薬と同じく、長期間服用を続けることによる薬剤耐性の獲得が問題視されていました。アダパレンや過酸化ベンゾイルが登場したこともあり、飲み薬(内服抗菌薬)の処方割合は少しずつ減少し、2022年では23%でした。
代わって処方割合が増加したのが過酸化ベンゾイルです。過酸化ベンゾイルは、抗菌作用と肌の古い層をはがして毛穴詰まりを改善する効果がある治療薬です。薬剤耐性菌の懸念もないことから、欧米を含む海外では1960年代から使用されてきました。2015年に発売されて以降、処方割合は増え続け、2020年には25%を超え、飲み薬(抗菌内服薬)より多く処方されています。
塗り薬、飲み薬(内服抗菌薬)、過酸化ベンゾイルによる治療をしても、なかなかニキビがよくならない場合や、これらの治療ができない場合には、漢方による治療が選択肢に挙げられます。調査期間の2013〜2022年にわたり、漢方薬の処方割合は8%と一貫していました。漢方は副作用の心配が少なく、また年齢や体質、アレルギーなどの問題で西洋薬の処方ができない患者さんでも服用できるなど、一定の需要があることがわかります。
なお、2013年には、診断がついたのにいずれの処方もされなかった患者さんが5%いましたが、2022年には2%まで減少していました。
増加するニキビ患者数、新型コロナウイルス感染症の流行が影響か
今回調査の対象とした2013〜2022年に、ニキビと診断された患者数は、2013年の64,348例から2021年には112,701例と増加し、2022年には少し減ったものの、109,491例でした(図2)。早い段階からニキビの治療が可能になったことで、ニキビを治療するために医療機関を受診する患者さんが少しずつ増えてきたようです。
また、2020年に大きく患者数が増えた背景には、新型コロナウイルス感染症の流行拡大による影響があると考えられます。2020年以降は日常的にマスクを着用する機会が多くなりました。摩擦による肌のバリア機能の破壊や蒸れによるアクネ菌の増殖などが原因となり、ニキビを訴える患者さんが増えたと考えられます。状況が落ち着き始めた2022年以降は、わずかながら患者数は減少しています。
図2 ニキビと診断された患者さんの数の推移
漢方によるニキビ治療では、十味敗毒湯の処方が多い
ニキビ患者さんのうち、漢方による治療を行った患者さんが一定の割合でいることをご紹介しました。漢方では、体内にこもった余分な「熱」が表面に上がってくることでニキビができると考えます。そのため熱がこもっている部分を見極め、体のバランスを整えてニキビができにくい体質へと改善する治療を行います。
それでは、どのような漢方が処方されたのでしょうか。株式会社JMDCが保有するレセプトデータから、2022年1月〜2022年12月の間に保険診療を受けた10,320,383人に対して処方された漢方薬を集計しました。集計の結果、群を抜いて多かったのが、 十味敗毒湯 と 桂枝茯苓丸料加薏苡仁 でした。
ニキビ患者さんに処方された漢方
- 十味敗毒湯
- 桂枝茯苓丸料加薏苡仁
十味敗毒湯 は体内にたまった水分や熱を発散し、肌を正常な状態に戻していく働きがあるとされ、主に膿を伴うできものを改善する目的で処方されます。ただし、有効性が期待できるのは比較的初期の段階または軽度の症状に対してで、慢性化している状態のニキビにはあまり処方されない傾向にあります。
一方の 桂枝茯苓丸料加薏苡仁 は、血行をよくする 桂枝茯苓丸 に、肌トラブルの改善に効果があるとされる「薏苡仁(ハト麦)」を加えた漢方です。そのため、血の巡りが悪く、老廃物を出せないことで長引くニキビや、赤黒いタイプのニキビに向いていると言われています。
また上位2つの漢方の位置づけとして、 十味敗毒湯 は軽症から中・重等度のニキビに、桂枝茯苓丸料加薏苡仁 はニキビ痕の残った皮膚の改善も含めた治療に適していると言えます。
漢方と同時にほかの薬剤を処方された患者さん81,540人を対象に、どのような薬剤が処方されたのかを調べました。その結果、薬ではありませんが、ビタミン剤が29.7%の割合で処方されていました。具体的には、皮脂の分泌を適性に導くビタミンB2や肌のターンオーバーを正常にするビタミンB6、炎症を鎮める作用が期待できるビタミンCなどでした。
ほかには、ステロイドの塗り薬が25.1%に処方されていました。
ニキビは医療機関で治療する疾患、漢方なら同時に体質改善も
ニキビは自然に治ることもありますが、患者さんそれぞれの体質や生活習慣なども、ニキビができたり悪化する要因になっていることもあります。また誤った対応でニキビが悪化したり、一度治ったニキビが再発する可能性もあります。
ニキビは、医療機関で治療ができる疾患です。西洋薬による治療に不安がある場合は、漢方の処方もしている医療機関を受診して、漢方による治療も含めて相談してみましょう。
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