ムカイ・クリニック
向井 誠(むかい まこと)先生
1962年 大阪府生まれ
1986年 大阪市立大学医学部卒業。同大学医学部神経精神医学教室入局
1991年 同大学大学院医学研究科卒業。学位(医学博士)取得
1998年 蔡曉明先生に東洋医学を師事
2002年 丹比荘病院に勤務
2003年 ムカイ・クリニック開院
※全ての情報は掲載時のものです。現在の状況とは異なる場合があります。
掲載:2005/08/01
ムカイ・クリニック
向井 誠(むかい まこと)先生
先生は漢方に力を入れているようですが、精神科において漢方治療でよく診ている病気についてお話を伺えますでしょうか?
私は精神科領域の中でもうつ病圏の疾患や神経症に対し、漢方治療を使用する機会が多いかと思います。また、自律神経失調症、不眠症、心身症、ストレス障害、更年期障害などで漢方治療を希望されて来院されるケースも多いですね。
精神科の領域での漢方治療と西洋医学との違いはどのようなものなのでしょうか?
漢方治療と西洋医学の違いについて、例えばうつ病を例に挙げて考えてみましょう。うつ病圏の疾患では、西洋医学では抗うつ薬が治療に用いられますが、漢方治療では体質・病状・環境によってさらに5つの東洋医学的なタイプに分けて治療が行われます。これらの東洋医学的なタイプのことを我々は「証」と呼んでおり、それぞれの証に対応して適応処方が決まります。例えば、肝鬱気滞証(かんうつきたいしょう)を示したうつ病のケースに、肝鬱気滞証(かんうつきたいしょう)に対する処方・逍遥散(しょうようさん)が有効だったとしましょう。しかし、逍遥散(しょうようさん)はうつ病に限ってのみ用いられる訳ではなく、うつ病ではなくても肝鬱気滞証(かんうつきたいしょう)を認めれば逍遥散(しょうようさん)を用いることができます。この点は漢方治療の特徴で、西洋医学の治療と大いに異なる点ではないかと考えられ、漢方の有効性が高く副作用が出にくいという利点の大きな要因の1つではないかと思います。
精神科で漢方を用いる意義は大きいということですね。
精神科領域の漢方治療には「活力を高め、生活の質を改善する」といった最良の効果があると考えています。QOLの改善と言い換えても良いでしょう。精神科の分野に漢方治療を用いる理由はここにあるのではないでしょうか。しかし無論のこと、私は必要に応じて西洋医学の治療も使います。
ストレスの多い現代社会ですが、例えば、「うつ病」などは漢方ではどのような治療になるのでしょうか?その前にそもそもうつ病とは、どのような病気なのでしょうか?
うつ病は現在、気分障害の中に分類されています。脳の中のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の代謝異常がその発病に関係しているということが最近の研究で明らかになってきました。うつ病の症状として、はっきりとした原因がないのに気分がゆううつである、疲れやすい、何もする気が起こらない、朝は調子が悪いが午後から夕方にかけて調子がよくなる、考えがまとまらない、不眠、食欲不振などの症状をあげることができます。西洋医学的治療としてSSRI、SNRI、三環系抗うつ薬に、必要に応じて抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬などが用いられます。
うつ病の漢方治療は、また違ったアプローチになる訳ですね。
うつ病圏の疾患の中には、大うつ病性障害、気分変調性障害、特定不能のうつ病性障害などといったさまざまな疾患があります。私の診療所には、漢方治療を希望されて来院されることが多く、軽症から中等度のうつ状態に対して漢方治療が有効なことは結構多いように感じています。特に気分変調性障害の方を漢方で治療する機会が多いと思います。気分変調性障害は従来、「抑うつ神経症」、「神経症性うつ病」と呼ばれていた疾患で、慢性で病相をなさない抑うつ症状によって特徴づけられます。
さて、うつ病圏の疾患に対し、さきほどもお話ししましたが、体質・病状・環境によってさらに5つの東洋医学的な証に分けて、それぞれ逍遙散(しょうようさん)、血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)、温胆湯(うんたんとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、天王補心丹(てんのうほしんたん)などの加減法をよく使っています。ただ、臨床的には複数の証を同時に認めることが多いと思います。また、病気の経過や治療の過程で証は変遷していきますので、処方も変わっていくということになります。
西洋医学の治療、漢方治療に限らず、うつ病の治療で大事なことは、焦らずゆっくりと休息をとってもらうことが重要です。また、ご家族に対して、「これらの症状は病気によるものであって怠けではない、叱咤激励するのは禁物」ということを説明することも重要です。温かく見守ってあげることが大事であるということですね。
突然に呼吸困難や激しい動悸におそわれるパニック障害なども漢方が有効なのでしょうか?
パニック障害におけるパニック発作では、動悸、呼吸困難、嘔気などの多様な身体症状が突然出現し、強い恐怖を伴います。これらのパニック発作を繰り返して経験し、また発作が起きるのではないかと心配し、その恐怖のために外出できなくなることもあります。従来、内科領域で「心臓神経症」、「過換気症候群」と呼ばれていたものによく似ています。
また、パニック障害とうつ病性障害が併存することも多いといわれています。西洋医学的治療法としては、SSRI(フルボキサミン、パロキセチン)、三環系抗うつ薬(クロミプラミン、イミプラミン)、抗不安薬(アルプラゾラムなど)などによって治療されます。
パニック障害に漢方治療が有効なことをしばしば経験します。私は、天王補心丹加減(てんのうほしんたんかげん)というお薬をよく使っています。
先生ご自身の健康法やストレス解消法がありましたら、教えていただけないでしょうか?
そうですね。私はその日のストレスをその日のうちに解消することにしています。仕事の帰りにスポーツジムへ行って、風呂に入って帰るだけでも効果があります。最近は心療内科の先生に勧められて自彊術(じきょうじゅつ)という体操を始めています。仕事の行き帰りにウォーキングもいいですね。週末、近くの中華料理屋さんへ食事に行くのも楽しみの1つです。
本日は取材に快くご協力いただきまして、ありがとうございました。
ムカイ・クリニック
向井 誠(むかい まこと)先生
1962年 大阪府生まれ
1986年 大阪市立大学医学部卒業。同大学医学部神経精神医学教室入局
1991年 同大学大学院医学研究科卒業。学位(医学博士)取得
1998年 蔡曉明先生に東洋医学を師事
2002年 丹比荘病院に勤務
2003年 ムカイ・クリニック開院
※全ての情報は掲載時のものです。現在の状況とは異なる場合があります。
またまた取材で大阪に来ています。
今回お伺いするのは、堺市にありますムカイ・クリニックです。
最近うつ病などが社会問題になっていますが、精神科治療における漢方について、お話を伺ってまいりました!
だれの身にも起こりうる問題として、大変貴重なインタビューになりました。
第4回「今月の先生」は、向井 誠先生です。