亀田北病院 宮澤仁朗先生

漢方医

亀田北病院

宮澤 仁朗(みやざわ じろう)先生

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当院は、認知症をはじめとした精神科医療を中心に、高齢者医療において重要な役割を担っています。入院患者さんの平均年齢は77歳で、地域の中では、認知症を主体とした高齢者向けの精神科病院として位置づけられています。

 

病床数は400床で、認知症治療病棟、精神療養病棟、精神一般病棟があり、精神一般病棟の中には、寝たきりの療養患者さん専用の病棟もあります。

 

また、道南地区で最初に指定された認知症疾患医療センターと、精神科デイケアを併設しています。精神疾患の方々に対して誠実な医療を展開するとともに、認知症で在宅や施設での生活が困難になったご高齢の患者さんのための最後の砦としての役割を担いつつ、再び元の生活の場所へと戻っていただけるよう心がけています。

うつ病、統合失調症など全般的に精神疾患を診ますので若い方もいらっしゃいますが、基本的には、認知症、高齢うつ病、不眠症の方々を対象に診療していて、精神一般外来と、もの忘れ外来両者を担当しています。

 

病院全体としても、認知症病棟もありますし、精神科の疾患だけではなく、内科的な身体合併症を持っている高齢者の患者さんも多く診ています。

 

また、精神科医療と共に、内科などの一般医療も充実させていくことも大切にしています。

私は精神科医ですので、とにかくよく患者さんのお話に耳を傾けることを大切にしています。色々とお悩みを抱えている中、せっかくきていただけるのだから、今日はきてよかったな、と笑顔で帰っていただけるような診療を心がけています。辛い病気のことをお話するにしても、ご本人が前向きな形で受け止められるような心配りをしたいと思っています。

精神一般外来と比べて、もの忘れ外来は多くの場合2倍以上時間を要します。患者さんご本人を診療してお話を聞くのはもちろんですが、介護をされているご家族に対しても、疲弊度をみたり、心のケアをすることが必要ですので、患者さんご本人とご家族、両方にお話を聞くようにしています。

そうですね。介護疲れはどうしてもあります。介護されているご家族にも治療が必要な場合が多く、認知症患者さんを介護している方の「4人に1人」はうつ症状、不安、焦燥感を抱えています。介護疲れからご家族がうつ病を発症する、更には認知症になってしまうことも多いですので「老老介護」や「認認介護」をできる限り防ぎたいと考えています。

入院患者さんについては、少しでも早く精神症状が改善して、在宅への移行や、入院という形ではなく施設などで地域の中で生活できるよう、多職種で協力しながらチーム医療を展開しています。また、入院患者さんが安心して療養できるよう、患者さんの人権を尊重した対応ですとか、スタッフの対応力の教育にも力を注いでいます。

元々は西洋医学を中心に診療していたのですが、抑肝散加陳皮半夏という漢方と出会ったことが、漢方診療を始めるきっかけとなりました。

 

西洋薬は臓器や器官、病気に対してピンポイントに効果を示しますが、漢方薬は心とからだを一体として診て体全体の調和を図る「全人的医療」に適しており、精神科には特に適した薬剤だと思います。漢方薬のひとつひとつに、先人の治療経験の集積を感じますし、漢方エキス「剤」には様々な生薬が入っているので、一剤で複数の症状への効果も期待できます。

 

また、原因が特定されていない症状や病気の診断が出ていない、いわゆる未病と呼ばれる状態に対しても、その症状に合わせて漢方薬を処方することで治療ができるというメリットがあります。

抑肝散加陳皮半夏は、様々な精神症状に広く用いられている漢方のひとつです。特に、不眠や、落ち着きがなく興奮状態になってしまう不穏、暴言、暴力、威嚇など攻撃性のある認知症の症状に対し改善効果が認められています。また、幻覚症状や記憶障害の改善、アルツハイマー型認知症の原因となる神経毒性の抑制などの効果も期待できます。

症状がかなり進行して感情のコントロールができなくなったことで、非常に怒りっぽくなってしまったアルツハイマー型認知症の患者さんがいらっしゃいました。

 

介護されているご家族も朝から晩まで患者さんの症状に向き合っていたので、無理心中を考えるまで追い詰められてしまって・・・そこで、抑肝散加陳皮半夏を患者さんに内服していただいたところ、本当に穏やかになって、今までのイライラ感や怒りっぽさがなくなり、不眠の症状もあったのですが、夜もしっかり眠れるようになった、というケースがありました。

 

「先生、本当に助かりました」と心からの感謝の言葉をいただいた経験が、抑肝散加陳皮半夏を患者さんに処方するようになったきっかけです。

患者さんだけではなく、介護されているご家族も、イライラされていたり不眠に悩まれていたりする場合が多いため、患者さんに処方している抑肝散加陳皮半夏をご家族にも内服していただくケースがあります。症状が改善すれば、介護の際の心の余裕にもつながります。

 

また、アルツハイマー型認知症の患者さんは、毒が入っているなどと疑い薬を飲みたがらない場合もあるのですが、介護されているご家族と一緒に漢方薬を飲むことで、患者さんご自身も安心して飲んでいただけるようになることがあります。

高齢者の方は、西洋薬と比べて漢方薬の方が安心できるようで、比較的素直に飲んでいただけるようです。漢方薬にも様々な種類がありますので、細粒タイプのものや、口に入れやすくこぼしにくいスティックタイプのものを選ぶようにしています。嚥下障害を持っている高齢者の方は、細粒タイプだとむせにくく、スーッと飲める方が多く、アルツハイマー型認知症の症状の一つであるバリント症候群の患者さんは、視覚情報と手の動きを正しく調整することが難しくなるので、スティックタイプのものが適しています。

そうなんです。あとは、1日の服用回数が少ないものを選ぶようにしています。3回ではなく2回の服用で良い漢方もありますので、大変助かっています。服薬回数は少ない方が患者さんご本人も楽ですし、スタッフの負担も減り、その分患者さんとの会話時間を長くとることができますので、治療する側にとっても大変有益です。

スポーツは、テニス、ゴルフ、そして野球が好きです。昼休みに玄関先の駐車場でキャッチボールをするなど、ちょっとした時間を見つけて体を動かして、ストレス発散しています。

他には、音楽も好きです。エレキギター、フォークギターをやっていて、以前に行っていたライブを目指して再び頑張っています!

お酒はなるべく赤ワインを飲むようにしています。赤ワインに含まれるポリフェノール(特にレスベラトロール)という成分が、アルツハイマーの予防に良いとされています。

 

ポリフェノールはアルツハイマーの原因となるアミロイドβタンパク質の蓄積を防ぎます。レスベラトロールはポリフェノールの一種ですが、海馬の細胞強化や、海馬傍回という部位の血流を増やすことがわかってきています。また、よく噛んで食事をする、ということも意識しています。噛むことによって、歯根細胞から脳の方に刺激が伝わるので、脳が活性化しますよ。

今後も心と体を一体として診る全人的医療を実現したいと思っています。そのためには、西洋薬とあわせて、漢方をうまく使う必要があります。病気だけではなく「人を診る医療」を当院の特色として、病院全体で目指していきます。

先生の略歴ご紹介

社会医療法人文殊会 亀田北病院
院長 宮澤仁朗(みやざわじろう)先生

昭和62年3月 札幌医科大学医学部卒業
昭和62年4月 札幌医科大学医学部神経精神医学教室入局
昭和63年5月 日本赤十字社伊達赤十字病院勤務
平成2年4月 札幌医科大学医学部神経精神医学教室
平成4年4月 特定医療法人さっぽろ悠心の郷ときわ病院勤務
平成12年1月 特定医療法人さっぽろ悠心の郷ときわ病院副院長
平成13年5月 特定医療法人さっぽろ悠心の郷ときわ病院院長
平成19年4月 札幌医科大学医学部神経精神医学講座臨床准教授
令和2年4月 社会医療法人文珠会亀田北病院院長

社会医療法人文珠会 亀田北病院院長、理事
北海道精神科病院協会理事
社会保険診療報酬支払基金北海道支部審査委員会委員
北海道障がい福祉課精神科病院実地審査委員
厚生労働省認定・認知症サポート医(平成18年12月~札幌・北海道第1号)
日本認知症グループホーム協会北海道支部顧問

■所属学会、及び主要研究領域
日本精神神経学会(学会認定専門医・指導医)
日本老年精神医学会
精神保健指定医

アルツハイマー病における画像解析(MRI,SPECT)、神経心理(Visionanalyzerによる視覚情報処理)、生体磁気計測装置(MEG)による脳磁場測定の研究に従事。
現在、アルツハイマー型認知症のハイスクリーニング検査「Me-CDT」の研究に携わっている。

■テレビ出演、書籍
北海道テレビ放送(HTB)イチオシ!モーニング
(平成23年3月~平成27年6月)
『漢方によるフレイル対策ガイドブック』(先端医学社)