順天堂大学医学部附属 練馬病院 新島 新一先生

漢方医

順天堂大学医学部附属 練馬病院

新島 新一(にいじま しんいち)先生

  • ※全ての情報は掲載時のものです。
    現在の状況とは異なる場合があります。

当院の小児科では全ての領域((1)神経疾患、(2)内分泌・代謝疾患、(3)腎臓・リウマチ疾患、(4)循環器疾患、(5)新生児疾患と発達のフォロー、(6)アレルギー疾患など)の診療を行っています。また、当院では漢方外来を設け、漢方薬と西洋薬を同じレベルで医師が処方する医薬品として捉えています。

西洋薬も各々作用機序に従った使い分けがあるように、漢方薬も使い分けがあります。当院の小児漢方外来では、様々な漢方薬を疾患、症状に応じて処方しています。
最も多い処方が五苓散(ごれいさん)です。吐気・嘔吐は小児の外来で最も多い症状ですので五苓散の処方量も多くなります。
西洋薬ではナウゼリンが汎用されています。

子供は成人に比し、水分量が多く、吐気、下痢が出やすいので五苓散が効き易いと考えています。特に感染性胃腸炎では下痢も激しく水分補給は必須です。五苓散は余分な水を排出するという機能があるので、このような症例には五苓散を処方します。
五苓散は小児の頭痛にも応用できます。
一般的に、小児の慢性頭痛には成人と同じように、トリプタン系の片頭痛薬や、西洋薬のイブプロフェンなどのNSAIDS(非ステロイド抗炎症薬)が処方されています。
しかし、当院では、ライ症候群を発症する危険性などを考慮し、漢方薬という選択肢を考慮しながら使用しています。

そうなんです。先ほどのお話では、奈美さんも梅雨時の頭痛持ちのようですが、
梅雨は痙攣や頭痛が増加する嫌な時期です。梅雨時の頭痛には五苓散、後背部の筋肉痛を伴えば葛根湯(かっこんとう)、冷えで誘因される頭痛には呉茱萸湯(ごしゅゆとう)を選択しています。
西洋薬は切り札とし、頓服的に処方しています。

漢方薬は予防的に処方しています。特に五苓散は頭痛のファーストチョイスと考えています。梅雨時期でなくても試してよいと思います。
夏は水いぼの患者さんが増加します。2~3個でしたらピンセットで除去できるのですが、全身に20~30個と増え困ってから受診するという患者さんが多いです。このような時、漢方があると助かります。当院では五苓散と薏苡仁(よくいにん)を併用しています。
五苓散の次に処方が多いのが、小建中湯(しょうけんちゅうとう)です。小建中湯は甘く、漢方薬の味が苦手という小児でも飲んでいただけます。小児の便秘を伴う過敏性腸症候群(IBS)など、お腹を触って腹直筋のつっぱりを確認してから処方します。
小児のアトピー性皮膚炎も小児漢方外来では多い疾患です。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)をメインに処方しています。
免疫細胞の一種、T細胞にはTh1とTh2があり、このアンバランスによりアレルギーが起きやすくなると考えられています。

主に病原体に対する免疫を担当するのがTh1、アレルゲンに関わるのがTh2といわれています。アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などのアレルギー疾患ではいずれもTh2が優位になっています。
アトピー性皮膚炎の小児では腸管免疫がTh2に偏っており、補中益気湯にはTh1を増やし、Th2を減らす働きが報告されています。

腸管免疫を整えるためには食生活の改善も重要です。
甘いお菓子、高カロリーのファストフードは控え、昔ながらの食事(味噌汁、米飯、納豆、海苔、メザシや鯵の開きなど)を勧めています。
これらの摂取により亜鉛の量も増え、成長促進やアレルギーの抑制に効果的だと考えます。
しかし、子供にお菓子を食べるなというのは現実的ではありません。
お菓子を我慢するくらいだったら、アトピー性皮膚炎が治らなくてもよいというのが子供の本音です。医師は子供の本音にも心を配り、食生活をできる範囲で改善するように母親と相談しています。

アトピー性皮膚炎で一番大事なのはスキンケアですが、最近では抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)の処方量も最近増えてきました。抑肝散加陳皮半夏は、もともと小児の夜泣き、疳の虫、夜尿症などに処方されてきた漢方薬ですが、夜中に衝動的に皮膚患部をかきむしるアトピー性皮膚炎にも有効です。時々、母子同服(ぼしどうふく:お母様とお子様に同時に内服していただく事)を勧めています。母親が、子供にかまいすぎる傾向が強いと子供も神経質になりやすくなります。
西洋医学的にはマイナートランキライザー(抗不安剤)ですが、当院の小児漢方外来では小児に中枢神経系に作用する薬は極力控えています。

当院では夜尿症の患者さんも多く、デスモプレシンが効かない場合に抑肝散加陳皮半夏を併用して使用しています。
また、鼻が詰まって眠れないという小児には麻黄湯(まおうとう)を処方しています。
含まれているマオウという生薬の成分がエフェドリン様の効果があり、鼻づまりにとても効果的です。子供は熱証なので合わないといわれたり、エフェドリンのせいで夜間に覚醒するといわれたりもしますが、実践漢方を優先しています。患者さんの満足度を一番に考えています。

小児の花粉症には、眠くなって学業を低下しないように中枢移行性の少ない眠くならない抗アレルギー薬(アレグラ、アレジオンなど)を使用しています。眠くなる抗ヒスタミン剤は乳幼児の痙攣も誘発する事が解ってきており、注意が必要です。これらの抗アレルギー薬をメインに処方していますが、効果が今一つ少ないと感じられる方には小青竜湯(しょうせいりゅうとう)などの漢方薬を併用していただく事で、より満足度を上げていただいております。もちろん、希望される方には漢方薬だけを処方することも可能です。
また、小青竜湯は受験生の集中力UPに適しています。

当院では癲癇の患者さんも多いのが特徴です。
癲癇の治療にはバルプロ酸ナトリウムなどの西洋薬単剤投与をメインにしていますが、コントロールできない症例には副作用および薬物相互作用の少ない薬を併用します。癲癇に伴う周辺症状及び抗てんかん薬の副作用には漢方を処方しています。
また、ADHD(注意欠如・多動性障害)やLD(学習障害)、PDD(広汎性発達障害)に伴う不眠、頭痛、集中力低下、かんしゃく、うつなどの不定愁訴は、西洋薬が効かない症例には漢方の選択肢もでてきます。

今回は、五苓散、小建中湯、補中益気湯、抑肝散加陳皮半夏、葛根湯、麻黄湯、小青竜湯、呉茱萸湯の使い方を概説させていただきましたが、他にも様々な漢方薬を処方しています。当院の小児漢方外来にご相談ください。
漢方薬の粉(顆粒、細粒)が飲めないという小児の患者さんには錠剤もありますし、飲みやすいように工夫した飲み方を詳しくご説明しますので、何でも相談してください。

先生の略歴ご紹介

順天堂大学医学部附属練馬病院
新島 新一(にいじま しんいち)先生
教授(神経・内分泌)
順天堂大学 1979年卒業(大学院卒業1985年)

専門疾患及び分野:
小児神経学、新生児神経学、新生児学、小児内分泌学、てんかん、神経学的発達の遅れ、水頭症、スタージウェーバー症候群、レックリングハウゼン氏病、夜尿症、成長ホルモン分泌不全性低身長症

専門医及び所属学会:
日本小児科学会専門医、日本小児神経学会専門医、身体障害者福祉法指定医、日本小児科学会代議員、日本小児神経学会理事、日本小児神経学会誌「脳と発達」編集委員長、日本周産期・医学会評議員、日本未熟児新生児学会評議員、乳幼児けいれん研究会世話人兼監事、胎児・新生児神経研究会会長、練馬小児臨床症例研究会会長、小児三次救急医療ネットワーク運営連絡会委員、練馬区小児救急医療連絡協議会委員会、Advisory Board of Seminars in Neonatology(英国)

研修・留学経験:
1982年-1983年 カロリンスカ研究所小児科(スェーデン)に留学し、胆汁酸代謝について研究。
1986年-1987年 ウェールズ大学およびレスター大学小児科(イギリス)に講師として留学(英国医師免許取得)。

ウェールズ大学では小児神経学(てんかん学)の研究、レスター大学では新生児神経学(新生児の脳血流および画像診断)に関する研究および指導に携わる。

 

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