原因となる病気がない「喉の違和感」に、漢方という選択肢

「ヒステリー球」とも呼ばれる咽喉頭異常感症とは

鼻の奥から喉の下あたりにかけての部分を「咽喉頭(いんこうとう)」と呼びます。風邪を引いたわけでもないのに、何となく詰まった感じがしたり、イガイガしたりするなど、咽喉頭に違和感や不快感がある場合、「咽喉頭異常感症」が疑われます。

明らかな原因がないのに、喉の奥の方に「何かつかえている」「何かできている」といった感覚があるのが、咽喉頭異常感症の特徴です。球のような塊があるような感じがすることから、「ヒステリー球」とも呼ばれます。

症状が起こる詳しいメカニズムはわかっていませんが、交感神経が活発になることで喉の筋肉が収縮して起こるとされており、ストレスや疲労が関係していると考えられています。そのため、自律神経失調症の方や神経が過敏な方に多く症状がみられる傾向があります。このほか、更年期障害や貧血、アレルギー性鼻炎、糖尿病なども原因になることがあるようです。

食事の際に飲み込みにくいといった影響がなければ、多くの場合は経過観察となる場合が多いようです。しかし、似たような症状を呈する病気に咽頭がんや口腔がん、咽頭アレルギーなどがあるため、しばらく経っても改善しない場合は医療機関を受診するようにしましょう。

咽喉頭異常感症患者、女性は男性の約1.5倍

咽喉頭異常感症と診断された患者さんはどのくらいいるのでしょうか。
株式会社JMDC(以下、JMDC)が保有するレセプトデータから、2022年4月~2023年3月の1年間で咽喉頭異常感症の診断がされた患者さんの数は25,430人でした。これを元に、JMDC独自の推計ロジックを用いて全国の患者数を推計したところ、推計患者数は395,240人でした。

 

図1 年代・男女別 咽喉頭異常感症 全国患者数推計

 

全国の推計患者数を年代別にみてみると、推計に基づく男性患者さんの数は160,237人でしたが、女性は235,003人と、男性の約1.5倍に上りました。女性患者さんが男性患者さんよりも多い傾向は、特に40~50代において顕著であり、60代ではその差が少し縮まっています。

受診先の診療科は耳鼻咽喉科が8割

喉に原因不明の違和感を覚えた方が、実際に受診した診療科を図2に示します。最も多かったのが耳鼻咽喉科で、次は内科でした。

 

図2 咽喉頭異常感症で受診した診療科の割合(n=25,430)

 

なおこの調査では、1人の方が複数の科を受診した数も含まれています。そのため、異常を感じて耳鼻咽喉科を受診した方が、セカンドオピニオンとして内科を受診した場合には、それぞれ1件ずつ数えています。

咽喉頭異常感症患者の不安神経症は一般人口の2〜3倍

咽喉頭異常感症の原因のひとつに、不安があると考えられています。そこで、咽喉頭異常感症の診断を受けた患者さんにおける不安神経症患者さんの占める割合と、JMDCがデータを持つ全母集団における不安神経症の患者さんが占める割合を比較しました。不安神経症(全般性不安障害)とは、日常生活でのさまざまな活動や出来事に対して、過剰な不安や心配を抱いてしまう病気です。
調査の期間および人数のデータは、「年代別・性別 咽喉頭異常感症 推計全国患者数」の表で使用したものと同じデータを用いています。

 

図3 調査全母集団と咽喉頭異常感症患者の不安神経症患者の割合

 

集計した期間中、咽喉頭異常感症とは関係なく不安神経症と診断された患者さんの割合は、男性1.5%、女性2.7%でした。一方、咽喉頭異常感症と診断された患者さんの中で、不安神経症との診断を受けた患者さんの割合は、男性4.3%、女性5.8%でした。

なお、咽喉頭異常感症の患者さんに対して不安神経症と診断した診療科の多くは、心療内科や精神科ではなく耳鼻咽喉科でした。

なかなかよくならない咽喉頭異常感症には、漢方で「気」を巡らせる

西洋医学では原因不明とされる咽喉頭異常感症ですが、漢方医学では生命活動の根源となるエネルギー(「気」)がうまく身体に巡らないことで起こる病気と考えます。気の巡りを改善するために使用される漢方薬のひとつが 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) です。

半夏厚朴湯 の効能として、喉の異物感や詰まり感の改善が挙げられます。また動悸やめまい、吐き気などを伴う不安や緊張感、神経性胃炎のほか、イライラ、不眠などの症状を和らげるためにも使用されます。

咽喉頭異常感症は、原因となる疾患がないためなかなかよくならないこともあります。漢方の力を借りて症状改善を期待したいとお考えの方は、漢方薬を処方している耳鼻咽喉科や内科を受診してみましょう。