第七十回 やすらぎ内科 新谷 卓弘先生

略歴

新谷 卓弘先生写真

院長: 新谷 卓弘(しんたに たかひろ)先生

1958年 3月 和歌山県東牟婁郡下里生まれ
1983年 3月 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業
1992年 4月 飯塚病院漢方診療科医長
1995年10月 富山医科薬科大学 和漢診療学教室医局長
1997年 4月 鐘紡記念病院和漢診療科医長
2000年 4月 岡山大学医学部非常勤講師(東洋医学)
2002年 4月 近畿大学東洋医学研究所教授
2007年12月 富山大学医学部 和漢診療学講座同門会会長
2011年 4月 森ノ宮医療大学保健医療学部 鍼灸学科教授
2016年 9月 やすらぎ内科 院長 現在に至る
資格: 1991年12月 医学博士
1992年12月 日本消化器病学会専門医
2000年 4月 日本東洋医学会指導医
2005年 9月 日本内科学会認定内科
2011年 4月 日本東洋心身医学研究会理事
2014年11月 産業医
著書: 『心に効く漢方〜あなたの「不定愁訴」を解決する』(PHP研究所)
『最新情報 漢方』(NHK出版、共著)
『現代漢方を考える』 (薬事日報社、共著)
『冷え症・むくみ。ホントなの ウソなの』(環健出版社)
『専門医のための漢方医学テキスト』(共著、社団法人日本東洋医学会)など

ナビゲーター:奈美

皆さん!お元気ですか!?
私は相変わらず、仕事に追われる毎日です!
ワークライフバランス的に、少し考えないとかも!
今回は、埼玉県さいたま市にあります「やすらぎ内科」に伺います。
その院名からも、ほっと、安心できる印象を受けませんか?私は、院名を聞いただけで、なんとなく先生の想い・姿勢を感じました。
さて、どんな取材になるのか……いつも取材前のこの瞬間が、ドキドキして、なんともいえない緊張感に包まれて……もう長く担当しているのに、なかなか慣れないんですよね〜!

やすらぎ内科写真


新谷先生にインタビュー

奈美:

院名からも想像してはいましたが、想像通りのとても心が落ち着く雰囲気の診療所ですね!
それに、さいたま市は都心からも近いのに、緑も多く、ゆったりとしていて、とても環境がよいのに驚きました。先生が、この地域に開業した経緯をお聞かせいただけますか。

先生:

私は、昭和58年に大学を卒業した時から開業医志向でした。この要因として、父が医師になりたかった夢をもっていたこと、親戚に開業している医師や歯科医が多かったという影響があったからだと思われます。

入局した医局は富山医科薬科大学(現、富山大学医学部)の和漢診療部という国立大学では、日本で初めて臨床で漢方医学を実践できる環境が整っておりまして、その医局長が土佐寛順(トサ ヒロヨリ)先生でした。先生には開業志向のあることを伝えていましたが、同期の入局者が私一人とあって、個人の希望をなかなかかなえられないまま、医局の指示にしたがい勤務地を10か所ほど転々とし、32年の歳月が流れました。
そんな折、浦和でご開業中の土佐先生から埼玉での開業を勧められ、ここ「さいたま市西区指扇(サシオウギ)」の地で、特別養護老人ホームに入所中の高齢者を診察しながら新規開業することに踏み切りました。
漢方でよく使われる生薬(ショウヤク)に、強壮作用(元気をつける)や、皮膚を丈夫にし、腎機能を改善する補氣(ホキ:生命エネルギーである「氣」のパワーを補うこと)剤の代表である「黄耆(オウギ)」がありますが、指扇の地名ともだぶり、この地を気にいったという経緯もあります。

奈美:

こちらでは、どのような患者さんを診ているのでしょうか。

先生:

中高年、中でも更年期から老年期にかけての女性が多数来院されています。男女比は1:3〜4くらいで女性上位です。指扇の地は武蔵野の面影を色濃く残した田舎ということもあり、車を利用される方が多く、クリニックから半径1キロ圏外からも多数お越しいただいています。

奈美:

遠方からも患者さんが来院されるのですね。
実は……私は、院名からも、こちらの診療内容には興味がありました。

先生:

当院は漢方内科以外に心療内科を標榜しているため、滅私奉公的な「他人から頼まれてもNoといえない」や「誰かに仕事を任せらず、結局、自分でしてしまうことが多い」という過剰適応(他者からどのように評価されているかが気になって、自分のいいたいことやしたいことができない状態。自分の感情を押し殺そうとするような「感情の便秘」にもなりやすい)の患者さんが多く、周囲に人を振り回すような方(多くはご主人やご親族。それから、職場の上司や同僚など)がいると、心身の不調をきたしやすくなり、疲れがとれない、やる気がでない、落ち込みやすい、不安になりやすい、眠れない、食欲がない、肩がこりやすい、冷えやすい、のぼせるなど、様々な症状を訴える方が来られます。漢方医学は原因志向というよりも解決志向に軸足をおいた医学ですので、このような方々にもフィットした治療方法を提供することができます。

奈美:

先生が今おっしゃたことは、私にもその大部分が当てはまります!
ほんとうにそうです! お話を聞いて、なんとなく、少し楽になりました……
日々の診療では、どのようなことを心がけているのでしょうか?

先生:

開業した当初からどのような疾患にも漢方薬を処方してまいりましたが、味やにおいのために内服を中断する方が多く、困っていました。煎じる場合、近所迷惑になるというクレームにも気を使います。私の経験では漢方が体質に合っていれば、「良薬は口にうまし」となるはずなのですが、飲む前から漢方を毛嫌いしたり、1〜2剤のんだだけで、「漢方は私に合わない」と決めつけられる方も大勢おられました。そこで、漢方の錠剤、カプセル、丸剤なども使って、まずは患者さんに薬を飲んでもらえる工夫をして、漢方薬は即効性もあり、よく効くということを実感してもらえるよう心がけています。

奈美:

私も漢方薬のお世話になっていますが、医療機関に診てもらい、体質に合ったものを処方してもらうと、味の苦みも感じませんし、とても飲みやすいです。それに、なにより効果を実感しています。この漢方ナビの取材を通して漢方の考え方を先生方から伺い、学ぶことや納得することが多いので、今では、漢方薬が手放せないくらいです。漢方ナビのこのコーナーが、そんな漢方の魅力を、多くの方達へ伝えることができるとよいのですが……

先生:

では、実際の診療手順について説明いたします。診察室に患者さんが入ってこられたら、まずはお話をよく聞きます(問診です)。その際、必ず相手の目を見ながら話しをするように心がけています。話をしながら目は電子カルテに向いているというのは患者さんに対して失礼だと思います。
患者さんは一度の診察で実にさまざまなことを打ち明けてくれますし、心の機微は顔の表情に現れます。そのようにして心理状態をみながら、多角的に訴えを拝聴いたします。

患者さんの顔色や表情をみることを漢方では「望診(ボウシン)」といいます。これは微に入り細に入りみるのではなく、ぼーっと患者さん全体を眺めるようにみることです。そのためにわざと度を落とした眼鏡を使っています。
そして、「切診(セッシン:触診のこと)」です。特に慢性疾患では脈よりもお腹の情報が大切で、抗病力の程度、不安、怒り、蓄積されたストレスまで探って行きます。
このようにして人肌のぬくもりが伝わるような優しい診察が大切だと考え、日々実践しております。

奈美:

全身の神経を集中して患者さんを診ているのですね!
それに、「わざと度を落とした眼鏡……」の話は、驚きです!
先生の患者さんに対してのさり気ない心遣いは、こうして話しているだけでも感じます。
治療には、様々な点に配慮することが大切なのですね。

先生:

現在、日本は超高齢社会(全人口のうち65歳以上が占める割合が21%以上の社会のこと。日本は2015年に26.7%を超えました)を迎えました。高齢者になるほど、疾病が複合しやすく、西洋薬だけではいきおい薬剤数が増え、この結果、薬害や医療費の高騰にもつながります。
一方、漢方薬は複合多成分系の薬剤(一剤で多面的に作用します)ですし、薬価も安いので、漢方を併用することで、薬剤数と治療費を減らすことが可能です。ですから、患者さんの心にも、体にも、懐にも優しい三位一体の医療を展開できることが漢方薬の特色であり、強みであると自負しています。
ただし、漢方は健康補助食品ではなく、お薬です。薬を反対から読むと「リスク」になります。患者さんに合わない薬を処方しますと、副作用も出現します。一番多い副作用は甘草(カンゾウ)によって、体がむくんだり、筋肉がつれたり、血圧が上がったりします。また、「黄」の字がつく生薬にも注意が必要です。すなわち、黄芩(オウゴン)によって、間質性肺炎や肝機能障害といった薬害もありますし、麻黄(マオウ)、地黄(ジオウ)、大黄(ダイオウ)なども副作用が出やすいので注意が必要です。ですから、漢方を飲み始めて一か月くらいまでに血液検査を実施し、副作用の有無についてチェックさせていただいています。

治療は漢方薬主体ですが、難病の場合には、鍼灸(電気温鍼器)、星状神経節ブロック(近赤外線でブロックしますので全く痛くありません)、西洋薬も併用して、「今、ここ」で、できうることを実施しています。

奈美:

これだけ手を尽くしていただけるのは、とても心強いですね!
先生が漢方医を志したきっかけはなんですか?

先生:

学生時代(昭和52〜58年)、田中角栄氏の各県一医大構想のもと、医大が増えたこともあり、「君たちが卒業する頃には医師が余る時代が来るぞ!」と、いろいろな先生方からいわれました。医師不足の現在では信じられないことでしたが、事実でした。
そんな折、寺澤捷年(テラサワ カツトシ)先生という師匠との出会いが人生を変えました。医学部では50代ぐらいの教授から講義を受けることが多いのですが、寺澤先生は当時30代という異例の若さだったのです。まるで兄貴分のような先生の語りはとても親しみやすく、かつ面白く、東洋医学に対する興味を十二分に引き出していただけました。

医師過剰時代がやってくるという話もあり、それならばオンリーワンの道をと思い、国立の医学部で初めて設置された和漢診療部に入局し、漢方医学の道を志した次第です。

奈美:

これまで漢方で治療した患者さんで、特に効果を実感させられた体験やエピソードはありませんか?

先生:

自験例ですが、医学部5年生の頃、「青年性扁平ゆうぜい」という顔中にイボができる皮膚病にかかり、近くの皮膚科を受診しました。先生は抗がん剤を使えば確実に治るけれど、顔に色素沈着が残ることもあるといわれました。当時、未婚の身で、顔面に色素沈着が残るのは困るため、他に方法がないかと尋ねたところ、ヨクイニン(ハトムギのこと)なら効果が期待できるかもしれないと教えられ、だめもとで試したところ、驚いたことに飲み始めて3日ですべてのイボがきれいになくなってしまったのです。ヨクイニンは生薬ですが、一剤ですと民間療法になります。けれども、生薬の治療効果の高さに底知れないパワーのあることを実感しました。

それから、医師になって1年目に勤務していた時、病棟のナースが立山登山をして顔中にひどい日焼けをつくってしまいました。そこで、痔、霜焼け、火傷などに使用する紫雲膏(シウンコウ:世界で初めて乳がん手術をした華岡青洲先生が考案したもの)をたっぷり顔に塗ってもらい(いわば紫雲膏パックです)、翌朝には見違えるほど肌がツルツルになり看護師さんに大変感謝されたことも漢方医学を志してよかった体験です。

奈美:

この取材をしていても、先生ご自身が漢方を試されて、その効果を実感したとのお話をよく伺います。他にもエピソードがありそうですね!

先生:

最近では、不安をかかえていらっしゃる方がよく来られます。そのような方々の多くは、お腹のガスが多量に貯留しています。腹壁をたたくとポンポンと太鼓をたたくような音がします。この原因として、不安を感じると、人は逃げるか、耐え忍ぶか、戦闘態勢をとるかという行動をとります。そのような時には緊張していますから歯をぐっと噛みしめていることが多く、噛むことで唾液が反応性に出ます。すると、いつかはそれを飲み込みますので、空気も一緒にのみこまれてしまいます。呑気(ドンキ)という現象です。この結果、胃腸にガスがたまりやすくなるのです。

ある時、進級のかかったテストを前にして、若い女学生さんが来院されました。寝ていると大丈夫なのですが、座ったり、立っていると上腹部が張ってきて、それが気になって集中して勉強できないとの訴えでした。腹部レントゲン写真を撮りましたら、胃、小腸、大腸にガスが充満していました。便秘はなかったのですが、かみしめ癖がありました。そこで、四逆散(シギャクサン)と香蘇散(コウソサン)という漢方薬を合わせて処方しましたところ、1週間もかからないうちに腹部膨満がとれ、無事進級できました。この患者さんにも過剰適応の心癖があり、人前でゲップやおならをすることもはばかれるような方でしたので、進級ストレスとあいまってお腹にガスがたまりやすくなったのだと推察しました。

奈美:

私も緊張すると、お腹が張るといいますか、腹部にガスがたまっているような違和感を覚えます。そういえば、資格試験前などは酷かったように思います。
ところで、診療でお忙しい中、先生ご自身の健康法・ストレス解消は、どうされているのですか?

先生:

「人生は 食て寝て起きて 糞たれて 子は親となる 子は親となる」は、禅宗の僧侶である一休宗純(1394〜1481年)の歌です。私はこの三十一文字の中に人間の営みの全てが凝縮されていると考え、日ごろの生活で活かすように努めています(問診にも応用しています)。

具体的には、食べることに関しては、体を冷やすような、これはまた後ほどお話しますが、陰性食材を減らしています。私は太りやすい体質なので、昼食と夕食は糖質制限をして、よく噛むようにしています。寝るについては、熟睡できるように入浴は寝る直前にはしません。お風呂には、高名な精神科医である神田橋條治先生にならい焼酎を浴槽に少々いれています。そして、寝返りしやすいよう薄着で寝ています。眼精疲労が強い場合は、蒸しタオルを眼球に当てながら30分以内の仮眠をとることも心がけています。日中の活動は、スポーツの語源は「気晴らし」ですので、できるだけ早歩きで歩くように心がけています。庭の草むしりも足腰によいと思ってやっています。排泄も大切ですので、腸内細菌のうち善玉菌が喜ぶような麹を使用した発酵食品(味噌、納豆、お酒)を適宜とるようにして、快便を心がけています。人間関係については、人間関係のコアとなるのが親子関係です。
そこには自分を大切にしてくれる両親の存在が必要です。大事にされた子供達は安心して成長し、自分を愛せるようになり、過剰適応になりにくくなります。そのためには、夫婦関係が円満であることが大切だと思い、奥さんをリスペクトしながら一日一日を大切にしようと心がけています。などの観点からよりよい生活習慣を実践し、天寿を全うしたいと考えています。

ストレス解消と趣味については、患者さんの体調がよくなって、皆さんの笑顔をみさせていただくことが一番楽しいひと時です。

奈美:

漢方ナビをご覧になっている方々へ、毎日の食事や日常生活においてのアドバイスをいただけますか?

先生:

最近、診療をしていて感じますことは、「便通や免疫や骨にいいので、ヨーグルトや牛乳を毎日とっています」や、「朝から青汁、フルーツ、酢のもの、スムージーなどをとっています」と、女性患者さんからしばしばいわれます。漢方医学では、くだもの、酢のもの、サラダ、砂糖、乳製品は体を冷やす食材、すなわち「陰性食材」とよび、「心身の冷え(心も冷えてきますので、心の風邪(うつや不安)もひきやすいのです)」をもたらすものと考えています。
いかによい治療を行っていても、養生(特に食養生)がおろそかですと、漢方薬や鍼灸の効果が出にくくなります。体をあたためることで、慢性疾患が改善する患者さんを多く目にします。ぜひとも、日ごろから実行していただきたいと念じております。

奈美:

体をあたためることの効能については、取材先の先生方からもよく伺います。
私は、できるだけ夏でも冷たいものを控えるようにしています。そのせいか、以前よりも夏バテしなくなったような気がします。
最後に、先生がこれから目指されます医療についてお聞かせ下さい。

先生:

基本方針は、「漢方医学(漢方薬、鍼灸、氣功からなる医学)の適応とならない疾患や症状はない」としています。ただし、大きな血管障害(心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、解離性動脈瘤、肺梗塞など)、切除可能なガン、開放骨折(折れた骨が体表からみえる骨折)などに関しては、循環器、胸部外科、脳外科、神経内科、外科、整形外科の治療を優先します。ただし、このような病気にあっても早くから漢方医学を併用しますと、治りがスムーズになります。

日本は世界でも唯一、東西両医学の治療を同一のクリニックや病院で受けられる国です。まさに「和をもって貴し」の精神がいかされているのです。人生は長く、これから先もいろいろなことがあるでしょう。夫婦、友人、仕事などの人間関係を大切にしていても心身に不調が生じることはあります。そんな折には、ぜひご相談にいらしてください。あなたの体に何が起きているのかを見極め、幅広い選択肢の中からよりよい治療方法をご紹介させていただく所存です。

奈美:

今回 先生のお話を伺い、私自身、気持ちがとても楽になりました。
なんだか、私が治療を受けたみたいですね!
本日はお忙しい中、ありがとうございました。


取材後記

院名から想像した通りの、穏やかで、とても優しい先生でした!
診療における技術も確かでありながら、患者さん一人ひとりの気持ちに寄り添った医療を実践するのは、並々ならぬ日々の努力によるものなのだと……先生のお仕事はほんとうに大変だと、改めて思いました。
それにしても、漢方の世界は奥が深い!取材では、毎回、新しい発見!学びの連続です!
これからも、どんどん漢方の魅力をお伝えしていきたいと思います!

■今回の取材先

やすらぎ内科
〒331-0047 埼玉県さいたま市西区指扇1570-33
TEL:048-782-8814
URL:http://www.yasuraginaika.jp/

  • ※本文内の情報等は掲載時のものです。
    現在の状況とは異なる場合がありますので予めご了承ください。

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