第三十六回 渡部内科医院 渡部 迪男先生


略歴
氏名: 渡部内科医院院長 医学博士
渡部 迪男(わたなべ みちお)
略歴: 福岡県福岡市出身、神奈川県在住。
東京大学医学部医学科を卒業後、東京大学医科学研究所に勤務し、横浜で開業。
渡部内科医院 渡部 迪男先生



ナビゲーター:奈美
最近あまりいいニュースがないような気がしますが、漢方ナビは、みなさまに楽しく役に立つお話を提供し続けていきますね〜!本日お伺いする先生には、どんなお話が伺えるか…。
楽しみですね〜!神奈川県の金沢八景からお届けしま〜す!!

渡部内科医院



渡部 迪男先生にインタビュー
金沢八景は、海の近くといった印象で、なんとなくこの辺りまで昔は海だったような趣きが残っていますね。今は落ち着いた住宅街といった感じですが、この地域に開業された理由はなんですか?

先生:

大きな理由は、横浜の病院に勤務していたことです。全く知らない土地でしたが、横浜市立大学病院を始め、基幹となる病院も揃っていること。金沢八景、金沢文庫とも、古くから知られた景勝地であり、鎌倉にも近く、海も山もあること。東京や横浜の市街からも遠くないこと。
以上のような理由です。
開業当初は、現在とは違って、金沢の街全体に、まだまだのんびり感がありました。

先生のところでは、どのような患者さんを主に診ているのですか?

先生:

一般内科に関しては、地元の大人の方、主婦の方、ご高齢の方が大半です。
高血圧、脂質異常症、糖尿病など慢性疾患や、感冒、胃腸炎などの急性疾患がそのほとんどです。漢方外来を受診する人は、地元の他、少し離れた横浜市内や横須賀など神奈川が中心です。遠いところでは、東京、千葉、静岡、あるいはもっと遠方から受診する人もいます。
漢方診療を希望する方の多くは、体質の改善を必要とする場合が大半です。このように体力不足の傾向のある人は、生活習慣にも気をつけながら、体質を改善していくような漢方治療を行っていきます。

日々の診療で心がけていることをお聞かせ下さい。

先生:

受診する人の、日々の生活やその背景を知ることですね。患者さん一人ひとりによって生活習慣が違いますので、表面に現れる症状だけを聞くのではなく、日々の生活やその背景を聞き、それに合った診療を心がけています。
慢性疾患で通院している、ふだんは問題のない人達であっても、何かのきっかけで、体調をこわすことがあります。そのような場合、生活上の変化が原因であることも少なくありません。検査も大切ですが、生活の状況を知ることがとても大切です。
漢方診療においては、特にその傾向が強く、発病からの経過などをはっきり把握しなければならないことが多く、丁寧な問診が大切です。

漢方を使っての治療において、その特性や注意する点を教えて頂けますか?

先生:

漢方医学の基本は、陰陽五行や気血水という独特の医学理論とその人体観にあります。そこから導かれる、全身に注目して診断し治療するという診療方法が、西洋医学とは異なる点です。その結果、風邪などの急性疾患だけではなく、体質の改善にも効能を発揮します。
症状に合った漢方薬選びを行っても、うまくいかないことがあります。このような場合は、漢方の医学としての理論に戻って考えてみる必要があります。
また、既存の漢方薬だけで効果があがらない場合でも、生薬を使用することによって効果を認めることが少なくありません。
陰陽五行・気血水という古い医学理論をどのように解釈するかがポイントです。

漢方医を志した動機やきっかけは、なんだったのでしょうか…。

先生:

まだ戦後と呼ばれる半世紀前、私が学生時代のことです。
大学での授業の合間に、友人と将来についてしゃべっている時に、思わず「漢方!」と口にしたのが始まりでした。その頃は人生論や哲学など、主として東洋思想に関心があり、そんな中で自然に、漢方に興味が湧いていたのかも知れません。当時は、第二次世界大戦も終わり、科学万能の時代が幕を開けつつあった、そんな時代でした。医学と言えば、当然西洋医学のことであり、東洋医学や漢方という言葉そのものが、社会全体から消えつつありました。
今でこそ笑い話ですが、「漢方!」と言った際、友人達がとても不思議そうな顔をしたことが思い出されます。

え〜!…そんな時代があったのですね〜!今では、だいぶ様相が違ってきていると思いますが…もっと、いろいろ教えて下さい!

先生:

保険診療の中で使う漢方薬の処方の仕方というのは、それぞれ確立されているのですね。現代医療の一環として、おおいに活用されていることはとても喜ばしいことです。ただ、漢方は古代人の自然観や感覚に基づいた古代の医学であって、現代医学とはまったく関係のない医療体系なのです。
漢方を学び始めると分からないことが沢山出て来ます。ですから、「漢方が発祥した当時はどのような考えがあったのだろうか?」という疑問が、ますます深まっていくばかりでした。「本来の医学としての考え方はなんだったのだろうか?」ということが、長年の大きなテーマとなりました。
陰陽五行・気血水という、古代特有の考え方を現代的に解釈して、漢方診療に活かすように努めています。

先生のところでは、漢方薬と生薬をうまく採り入れて治療されておりますが、漢方というとスティックに入っているのを想い浮かべてしまうのですが…。

先生:

漢方薬というのは、分かりやすくいいますと野菜サラダだと例えればよいでしょうか…。中に入っているきゅうり、レタス、キャベツ、トマト、タマネギやニンジン、フルーツなどが生薬といったイメージになります。
その外さまざまな野菜の入ったサラダがいろいろありますが、一つのサラダが一種類の漢方薬にあたります。それらは見ただけで何が入っているかが分かりますから…それと同じことなのです。
いろいろなサラダの中から、今日の料理に一番ふさわしいサラダを選び、時には上手に組み合わせて出すのが保険医療なのですね。その中に入っている野菜やフルーツなどにあたる個々の生薬に、それぞれどのような働きがあるのか?といった分析をするのが本来の医学であり、その裏づけがあっての漢方医学なのですね。
ふだん私達はもともとの健康な状態にあり、その健康を支えている仕組みが陰陽五行であり、気血水です。ところが、なんらかの原因で健康を崩した時は、健康な状態をベースにして、その健康を崩してしまった原因や病態を取り除いてあげるために、漢方薬や生薬としての効能が生かされるのです。

例えが分かりやすいです!いろいろな野菜が入っているサラダが漢方で、その中のレタスやトマトが生薬でなんですね!

先生:

ハハハ!そういうことです!

漢方は、長く飲むことにより体質改善を促すものと、早く効果の出るものとがあると伺ったことがありますが…。

先生:

昔は漢方薬くらいしかお薬がありませんでしたから、風邪などに即効性があるお薬として効能があったのですね。
ただ、それは基礎体力がある人に即効性がある場合であり、それ以外の冷え性がある、消化不良があるなど多少体力に不安があるなど多くの場合に対しては、体質改善を含めて、その人なりの本来の健康な状態を回復することが大切なんですね。
もっている体力以上に負担がかかってしまうと体調を崩してしまいます。薬を飲んで、そのときだけよくなったように見えても、生活習慣を含めて、その奥にある真の原因を取り除いてあげないと、本来その人がもっている健康な状態に近づけ、維持することはできません。
そういう意味で体質改善には時間がかかり、長く飲む必要がある場合があるのです。

体力があるがために、却って不具合が出てきたりする…なんてこともありますか?

先生:

体力のある人は、とかく食欲も旺盛だったりしますが、そんな状態で、もしどこか体調が悪い…例えば、消化吸収が良すぎて標準体重を大きく上回ってしまい、肥満になってしまったり、お腹が張って苦しい…などの症状が出てくる場合があります。ですが、体力があり、特に何もなく健康であるなら問題はありません。

体力があって、特に症状として出ていなければ問題はないのですね!でも、過剰に栄養を摂取したりして、何らか症状が出てきた場合には、それを調整して整える必要があるということなのですね!漢方で治療するというのは、簡単なことではありませんね…。

先生:

今はあまりいわれなくなりましたが、漢方には「証」という診断基準があります。「証」があって、それに漢方薬をマッチングさせるというのが漢方の治療になります。ただそれだけではうまくいかない場合もあります。それをどうするかが問題の一つなのです。
先日診た方で、二十代の女性で冷え性の方なのですが、偏頭痛で呉茱萸湯を飲んでいたのになかなか治らない…さらに加味逍遥散を飲んでみても治らないという患者さんが当院のホームページを見て来院したのですね。
漢方の考え方を話し納得して頂き、偏頭痛にも対応しながら、まずは体質改善から始めました。

「なんでも漢方で治療できるか?」といったらそうというわけではありません。その意味で、古代医学としての漢方をどのようにして現代医学で検証していくのかがとても大切であり、今後の課題でもあります。症状が出ていたとしても、その根本にある原因を探りながら治療をしていくことが重要です。
もちろん、出ている症状を抑えることも漢方の役割ではあります。そうはいっても、保険適用のものだけでも約200種類くらいあるでしょうか…生薬の種類まで含めると数百といった数になります。一人ひとりの患者さんに適した漢方をマッチングさせるのはとても難しいものがあり、単純に症状にあわせて漢方を処方するといったものではないのです。

古代漢方の医学としての考え方には、先ほどから言っているように、陰陽五行・気血水という考え方があります。「陰」を「お腹」と例えるなら「陽」は「背中」といいますか…表裏一体といった考え方になります。
五行は、心臓や肝臓、腎臓、肺などの臓器にあたるでしょう…気血水というものは少し哲学的な考え方でもありますので、さまざまな解釈があり難しい面もありますが、血水の「血」は血液と考えられ、「水」は体内を循環している水分と受け取れば、実際の体に合った考え方になります。それに「気」が流れるルート「経絡」があります。簡単にいえば、陰陽と五行を巡る気血水があるということになり、古代医学としての漢方の考え方の基本になります。
もっと簡単に例えるなら、体の中を一周するように山手線が走っているとしますね。気血水の流れです。…内回り外回りがありますね・・「陰陽」の考え方で、これを陰陽としたり、あるいは東京駅を「背中」の中心となる駅、新宿駅を「お腹」の中心となる駅だとします。新宿駅で混雑がおきると「気」が停滞して、山手線全体の電車や乗客の流れ「気・血・水」の巡りが悪くなり、山手線に何らかのトラブル「症状」がおきてきます…その混雑「症状」やその原因を取り除いてあげられれば、またスムーズに流れるようになり、東京近辺の交通状況が改善されますね。
このように例えると、池袋駅界隈の渋滞は葛根湯で解消することができます。そう考えれば、陰陽五行・気血水の考え方も分かりやすいでしょう!
生きた人間をよく観察することを重要視している古代医学の思考は、解剖学から始まった現代医学としての西洋医学においても、とても大切なことではないでしょうか。確かに、臓器を個々に診ていくことも重要ですが、全体としての役割といいましょうか…全身で診ることも重要だと考えます。

治療をしていてのエピソードなどはありますか?

先生:

アトピーの患者さんが長く服用していることや、体力の少ない人の体力がついていくこと、胃腸が丈夫になっていくことなどが印象に残っています。
当院の漢方診療では漢方薬の考え方を工夫したり、あるいは生薬を用いることで、主な症状が改善されるだけではなく、その原因となっている体質を強化し、体の芯から丈夫になることを目指しています。アトピーに限らず、冷え性、便秘、胃腸が弱いといった虚弱体質の人が多く、体質を改善し強化することが大切になってきます。その結果、長く漢方を服用していくうちに、アトピーなどの主症状が改善されるだけではなく、体力がつき胃腸が丈夫になっていくことを、実際の診療で経験します。
また、長年に渡って生薬レベルで診療することによって、漢方医学の基本的な考え方がより深く理解できるようになった気がします。その逆に漢方診療の難しさも改めて痛感するようになりました。
診療のお忙しい中、先生ご自身の健康管理はどのようにされているのですか?

先生:

こまめに体を動かすようにしています。体がしだいにかたくなってきますから。本来なら自然の中で心身ともに解放されることが、一番のストレス解消になりますが、なかなか時間がありません。
それから、音楽を聴くことがストレス解消法であり、趣味の一つです。帰宅途中にクラシック音楽を聴いています。

日ごろの食生活や生活習慣などで心がけていることはありますか?

先生:

なんと言っても食べ過ぎないことです。熱すぎないもの、極端に冷え過ぎてないものをとるようにしています。それから、果物や野菜を良く食べます。できるだけ温かい物を摂るように心がけています。
適度な運動・食事・睡眠・仕事など、バランスをとることが大切ではないでしょうか。

今後の先生の医療についてお聞かせ下さい。

先生:

現代医学と古代医学である漢方とは、医学の前提となる人体観が異なります。
古代医学の前提となる医学理論が、現代的に検証される必要があります。そのうえで、将来的にはより大きな人間観のもとに、両者を含めた、より大きな医療体系が出現すると考えています。

本日は、ありがとうございました。


取材後記

漢方の取材は、ときに驚き!ときに感動!がいっぱいあります…そして奥が深いんですよね〜!!陰陽五行・気血水の話は、人体にとってとても自然なことのように感じました。みなさんはいかがでしたか?益々漢方ワールドの深みにはまりそうです!!

■今回の取材先
渡部内科医院
住所:〒236-0035 神奈川県横浜市金沢区大道1-29-1
TEL:045-701-3666
URL:http://www.watanabenaika.e-doctor.info/

※本文内の情報等は掲載時のものです。
  現在の状況とは異なる場合がありますので予めご了承ください。


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